調布東山病院で毎週月曜日の午前に
血管外科外来を担当していただいている
佐藤紀医師が、今回も鑑賞した映画に
関する文章を寄せてくださいました。

「面白いって映画評に書いてあったよ」
というだけの情報で何の予備知識もなく、
時間があったからという理由で
予告編が始まってから飛び込みで
映画館に行きました。

弘法大師の修行の話かと思っていたら
とんでもない、夢枕獏の
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」
を原作としたファンタジーでした。

東宝×KADOKAWA

唐の時代、少なくとも治世前半は
名君とたたえられた玄宗皇帝は、
絶世の美人楊貴妃にうつつを抜かし、
政務をおろそかとします。

 芙蓉の帳暖かにして 春宵を度る
 春宵短きに苦しみ 日高くして起く
 此れ従り君王 早朝せず
 (長恨歌)

まあつまり、楊貴妃とベッドに居っぱなし
というわけですね。

そこで756年に安禄山が反乱を起こす。
(安史の乱)
楊貴妃が乱の原因となったとの
部下達の抗議に耐えかねて、
玄宗皇帝はついに楊貴妃に死を給う。

 翠華揺揺として 行きて復た止まる
 西のかた都門を出ずること 百余里
 六軍発せず 奈何ともする無く
 宛転たる蛾眉(=緩やかにカーブした眉、
 つまり美人) 馬前に死す
 花鈿(=簪)地に委して 人の収むる無し
 翠翹金雀 玉搔頭
 君王面を掩ひて 救ひ得ず
 迴り看て血涙 相和して流る

血の涙を流し、悲しんだと言うこと。
白居易は見てもいないのに
臨場感きわまる表現です。

この後玄宗皇帝は長安に戻ることは
できたのですが、以後は廃人のような
暮らしを送ったとのことです。

さて、話はこの安史の乱から約50年後
(映画では30年と言うことになっていますが)
に入唐した空海が、同時代人の白居易
(白楽天、長恨歌の作者。安史の乱の
 後の生まれ)
とともに、楊貴妃の死に秘められた謎を解く
というフィクションとなっています。

話には妖怪猫や妖術師など出てきますが、
ちょっとやりすぎかなと思われるほどです。
なお妖猫は完全CGだそうです。

 温泉水滑らかにして 凝脂を洗ふ
 侍児扶け起こすに 嬌として力無し

“絶世の美女”とされる楊貴妃ですが、
色白でかなりふくよかな女性で
纏足(てんそく)をしており、
元気に動くようなタイプでは
なかったようです。

しかし映画で楊貴妃を演じるのは
台湾の女優 張榕容(チャン・ロンロン)。
現代的な美人。

フランス人と台湾人のハーフだそうで、
滝川クリステルみたいな感じですかね。

角川-東宝、日中合作映画で、
空海には染谷将太、
阿倍仲麻呂には阿部寛、
松坂慶子なども出演しています。

VFX好きな方はどうぞ。
それなりに楽しめます。