前編

こちらをご覧ください。

 

相手と良い関係性を築くための手順

4つの柱を効果的に相手に届け、良い関係性を築くために、「5つのステップ」と呼ばれる技術を用います。「この人と一緒なら安心だな」と感じてもらうためのアプローチです。

ステップ1 出会いの準備 ノックして反応を待つ

ユマ_ノック

3回ノック→3秒待つ
→(3回ノック、3秒待つ)→1回ノック

友人の家を訪ねたときと同じようにノックをして、相手に〝出会う〟準備をしてもらいます。
認知機能が低下すると、音に反応するまでに時間がかかります3回ノックして反応を3秒待ち、反応がなければもう一度繰り返します。
それでも反応がないときは近くまで移動し、テーブルやベッドのヘッドボードなどをノックしてみます。

 

 

ステップ2 ケアの準備 関係性を築く一言

ユマ_準備

友人と会っていきなり用件を話したりしませんよね。「おはようございます。お顔を見に来ましたよ」など、相手と良い関係を築く一言を添えます。
すぐに「着替えますよ」「食事ですよ」ケアの話をしないことが、ケアを受け入れてもらえることにつながります。
もし受け入れてもらえない時は、一度諦めることも大切です。そのときはステップ5へ進みます。

 

 

ステップ3 知覚の連結(実際のケアの場面) 見る・話す・触れるを同時に

ユマ_ふたり

(奥)見る・話す (手前)ケアのサポート

4つの柱を組み合わせて「あなたを大切に思っています」というメッセージを伝えながらケアを進めます。
ここでは、言葉と行動に矛盾が生じないようにすることが大切です。たとえば、ゆっくり話しながら、腕を掴んでしまっていては矛盾してしまいます。
1人で同時に技術を使うことが難しい場合は、関係性を築くマスターとケアをサポートする黒子とに役割を分けて行います。

 

 

ステップ4 感情の固定 良い印象を感情記憶に残す

ユマ_ケア後

友人の家で食事の後にゆっくりお茶を飲むように、ケアが終わってすぐに立ち去るのではなく、「たくさんお話しできて楽しかったです」「さっぱりしましたね」など、お互いに良い時間を過ごせたことを確認します。

認知症で記憶することが難しくなっていても、「楽しかった」「嬉しかった」「悲しかった」という感情の記憶は残りますそこで、良いケアの時間が過ごせたことを記憶に残し、次回のケアにつなげます。

 

 

ステップ5 再会の約束 次のケアにつなぐ

ユマ_カレンダー

最後に、「また会いましょう」「次は◯時ごろ来ますね」と次に会う約束をしてその場を離れます。
約束は、カレンダーやノートに書いて残すこともおすすめです。再会の約束は、次のケアの始まりでもあります。

 

ユマニチュード 院内リーダー 紹介

ユマニチュードのケアは途切れずに皆でつないでこそ大きな価値が生まれます。実践者の輪を広げるためには、いつでも患者さんの身近な場所にいる現場看護師の力が何より必要となります。

そこで、2021年度よりリーダー育成研修を開催しています。現在は、当院の認定インストラクターによる1年間の研修を受け、合格した院内リーダーが病棟に3名在籍しています。

患者さんにユマニチュードのケアを届けることで、穏やかな入院生活とスムーズな退院へとつなげ、さらに現場スタッフに技法を広め、継続して実践できるように日々取り組んでいます。

院内リーダーになるまでの道のり

研修は11日間コースが組まれ、講義と実習、演習を繰り返します。

研修自体は月に1回ほどですが、次の回までに自分たちのケアの様子を動画で撮影するという宿題があります。それを次の回で各々プレゼンし、インストラクターやほかの受講者と振り返ります。コース終盤では、病棟でどのように広めていくかも議論します。

こうして1年間、実践と振り返りを繰り返しながら、晴れて院内リーダーとなります。

院内リーダーに聞きました

患者さんとの関わりで印象に残っているエピソードは?

重度認知症があり、言語的なコミュニケーションが難しく、清拭のケアの時にも混乱を招きやすい方がいらっしゃいました。1人はケアに徹し、1人は「見る」「話す」「触れる」を行いながら関係性を築き、終始落ち着いてケアを行うことができました

 

認知症の進行により、ケアの拒否やスタッフへの暴力がある患者さまへユマニチュードの技術を使いケアしたところ、安心した表情でスムーズにケアを受け入れていただき、自分から体を動かしたり、「ありがとう、気持ちよかったよ」と言ってもらえたこと。

 

研修を受けて変わったことは?

以前よりもひとりひとりの患者さまとの目線の合わせ方や、3秒待つこと、ポジティブな声かけを意識してケアできるようになったと思います。

 

 

院内リーダーになってからは、相手の小さな反応を見逃さず、少しでも良いところを伝え続けることを心がけるようになりました。今までもコミュニケーションを疎かにしていたわけではありませんでしたが、声かけや関わり方でネガティブな反応が少なくなったことに気づきました。

 

院内リーダーとしてのこれから

ユマニチュードの技術を全スタッフが意識して行い、患者さまへ心地よいケア届けていきたい。

 

 

“ユマニチュードの技術を取り入れることで良いケアにつながった”と、成功体験を得られるスタッフが1人でも増えていくように、まずは自部署でできることから伝えていきたいです。

 

ご覧になっている方

ユマニチュードは認知症の方だけでなくあらゆる人に対してできる、人間関係を構築するうえでも素晴らしいケアだなと思います。

いまはメディアでも取り上げられていますが、多くの方に知っていただければ良いなと思います。

 

ユマニチュードインストラクターや院内研修を修了したスタッフとともに安心安全な環境づくりと、できることを奪わないケアを目指しています。気になることがあればいつでもお声掛けください。

 

 

「4つの柱」や「5ステップ」など、言葉としては難しく聞こえてしまうかもしれませんが、普段私たちが何気なく行っているコミュニケーションとさほど変わりがないと思います。仕事が忙しくても、視線が合ったり、患者さまから本当に小さくても反応をいただけることは、想像以上に嬉しいものです。

地域やご家庭で介護されている方々こそ、ユマニチュードの技術を取り入れることで、心や体の余裕ができたり、介護疲れが少しでも軽減できるのではないかと思っています

少しでも多くの方にユマニチュードに関心を持っていただけると嬉しいです。

 

参考:
「優しさを伝え、支え合う社会へ みんなでユマニチュード」第3版(日本ユマニチュード学会)
「優しさを伝えるケア技法 ユマニチュード」第2版(日本ユマニチュード学会)

「広報誌 東山だより(2023.2)」より転載

東山会は、一般急性期病院、人工透析、予防医療、在宅医療・介護の4つの分野でサービスを提供しています。

調布東山病院:一般急性期病院、透析センター、ドック・健診センター、在宅センター

桜ヶ丘東山クリニック:人工透析専門クリニック

喜多見東山クリニック:人工透析専門クリニック

 

人生の航路(あなたらしい船の旅):東山会の取り組み